ケルト神話について-10 クーリーの牛争い(前編)

前回に続いて、「アルスターサイクル」のあらすじをご紹介します。
今回ご紹介するのは「クーリーの牛争い」というエピソードで、アルスターサイクルの一番盛り上がるところで、僕も大好きな部分です。

結構長くなりそうなので、2回にわけてまとめます。



戦争のはじまり

昔々、アイルランドのコノート地方にメイヴという王女がいました。
彼女は夫と財産の自慢ごっこをするのが趣味でした。

ある日、夫は素晴らしい雄牛を自慢してきました。
それが癪に触ったメイヴは、アルスターに夫の牛に匹敵する程の牛がいると聞いて、それを手に入れるためにアルスターに侵略をしてきます。
これが「クーリーの牛争い」のはじまりとなるのです。

旦那と張り合う為に、国や隣国を巻き込んで戦争をはじめちゃうとか、結構なDQNですねw

牛について

今回戦争の発端となった、牛について補足です。

旦那が自慢した牛は白い雄牛でフィンヴェナフといいます。
そして、アルスターにいるのは褐色の雄牛でドウンといいます。

この2頭はただの牛ではなく、もともとは別々の妖精の王に仕える人間でした。
ふたりは敵同士で、さまざまな姿に姿をかえて(転生)戦いを続けたとあります。
そういった転生を経て、牛になり、戦いを続けることになります。

女神マッハの呪い

このクーリーの牛争いが勃発した時、アルスターの国戦士たちは女神マッハの呪いによって、戦うことができない状態でした。
そんな状況もあって、クー・フーリンが一人でメイヴの軍隊と戦うことになるのですが、この呪いについて説明をしておきます。

アルスターの女王だった、マッハは自身が妊娠中に、夫の軽率さが原因で馬と競争をさせられることになります。
結果、競争には勝利をしたマッハでしたが、無理がたたり直後に命を失ってしまいます。

そんなマッハは絶命の間際にアルスターを呪いをかけました。
呪いの内容は、アルスターが危機に陥った時に、兵士は妊娠中の女性と同じ苦しみを味わうというもの。

呪いをかけるのがいいか悪いかはさておき、妊娠中の妻を馬と競争させる旦那って。w

クー・フリンの活躍

前述の呪いによって、アルスター中の兵士は戦うことができませんでしたが、光の神ルーの子であるクー・フーリンにはその呪いから免れました。
単身で敵を迎え撃つハメになるクー・フーリンですが、彼は投石器の達人で、その投石によってメイヴの軍隊がアルスターに侵攻してくるのを阻みます。

メイヴは使いを送って、クー・フーリンと面会をしました。
面会でメイヴはクー・フーリンを自らの軍に勧誘するのですが、クー・フーリンのアルスターに対する忠誠心は固く失敗に終わります。

そこでメイヴはクー・フーリンに一日に一人と戦う、毎日一対一で戦いをするように申し入れます。
(その方が犠牲は少ないし、その間に他の軍勢を先に進めようと考えたのです。)

一見見事な策略のように見えますが、クー・フーリンもそれに気付いたのか、禁忌(ゲッシュ)をメイヴの軍隊にかけ、敵の侵攻を遅らせます。
こうやって、クー・フーリンはアルスターの兵士たちが呪いから復帰するまでの間、時間を稼いだりしながら一人で戦い抜くのです。

この展開の中で、前章にあたる神話サイクルに登場する神が登場するエピソードがあるので、紹介をしておきます。

戦いの女神モリガン

アルスターの兵士たちが復帰するまでの間、クー・フーリンは毎日メイヴの軍隊の戦士たちと決闘を続けていました。

その日の戦いに疲れ果て、休もうとするクー・フーリンの元に美しい姿をした娘が現れました。
この娘は戦いの女神モリガンなのですが、クー・フーリンは
「戦いに疲れているから女とイチャつくヒマなどない」
とあしらいます。

この対応にモリガンは、
「せっかく手伝ってあげようと思ったのに!ムカつくからオマイの戦いの邪魔をするで!」(こうは言ってない)
と宣言をして、姿を消します。

翌日の決闘で、モリガンは宣言どおり、クー・フーリンの邪魔をしてきます。
決闘の最中に牛になったり、鰻になったり、狼になったりで妨害をしてきますが、それに対抗してクー・フーリンに傷を負わされます。

なんとか決闘にも勝ったクー・フーリンは、なんとモリガンの傷の手当をしてやります。
その後、モリガンはクー・フーリンの戦いを支援してくれるようになります。

モリガンはマッハとバズウらと、三女神で一神として扱われることが多々あります。
しかし、このクーリーの牛争いにおいては、マッハとは立場がかなりかけ離れているように思います。
ケルト神話に出てくる女神は、多面性をもつものが多くて、モリガンも「戦い」とか「復讐」だけでなく「豊穣」も司ります。

なんとなく、このあたりはインド神話にも似ているような気がします。
(とは言え、インド神話のことはあまりよく知らないw)

光の神ルー

前述のモリガンに妨害をされた決闘にもなんとか勝利したクー・フーリンですが、傷も負い、体力も限界に近づいていました。
体を横たえて休んでいると、そこに立派な戦士がやってきました。

その戦士は、クー・フーリンの父親であり、光の神でもあるルーでした。
ルーはクー・フーリンの、アルスターに対する忠誠を褒めて傷口に薬を塗ると、
「傷が治るまでゆっくりお休み」といいます。

その優しい声をきくと、クー・フーリンは深い眠りに落ちてしまいました。
クー・フーリンの傷が癒えて目覚めるまでの三日三晩の間、ルーはクー・フーリンの代わりにメイヴの軍勢らと戦い、侵入を防いでくれました。

そして、目が覚めたクー・フーリンは体の傷がすっかり癒え、再び戦いに身を投じます。

最後に

かなり長くなったので、今回はここで記事を終わろうと思います。
すごくヒーローモノっぽい内容で、マンガとかゲームにありそうな展開でした。

よかったら次回もお読みいただけたらうれしいです。

では、最後までお読みいただきありがとうございました。