ケルト神話について-15 勇士ディルムッドの悲劇

はじめに

今回もフェニアンサイクルのエピソードをまとめていきます。
そろそろ、このフィアナ騎士団の物語も佳境になってきてまして、次回くらいで最終回になると思います。

この「ケルト神話シリーズ」は、
神話サイクル→アルスターサイクル→フェニアンサイクル(今ここ)といった順番で紹介をしています。

よかったらタグ「ケルト神話」とか関連記事の方から、今までの記事も見て下さいね。

では、今回のエピソードを紹介していきます。



勇士ディルムッドの悲劇

ある日フィンが元気がないのを見て、息子のオシーンがどうしたのかを訪ねました。
フィンは妻サヴァを失ってから安眠できないと言いました。

それを聞いたオシーンや、フィアナ騎士団は、フィンによい後妻を見つけることにしました。

部下の一人が、マック・マックアート王の娘グラーニャが、フィンの妻にふさわしいと報告をしました。

が、グラーニャはフィンが自分と歳が離れすぎていると難色を示し、部下であるディルムッドに「私を連れて逃げなさい」と命令をします。

ディルムッドは禁忌(ゲッシュ)で「婦人の頼みごとを断ってはいけない」と誓約がありました。
ディルムッドはオシーンに相談をしますが、オシーンはディルムッドに誓約を守って、グラーニャと逃げるように助言します。

そしてディルムッドは仕方なくグラーニャの手を取って逃げます。

これにフィンは怒り狂い、騎士団をあげてディルムッドを追跡します。

が、騎士団のメンバーはディルムッドに好意を持っていたので、見つけてもフィンには知らせませんでした。

逃亡の途中でグラーニャの愛も固まり、またディルムッドもグラーニャを愛するようになります。

逃亡を続けるディルムッドですが、フィンには知恵の鮭の能力があり、親指を口にくわえると、ディルムッドの隠れている場所がわかりました。

そしてディルムッドの隠れ家は、フィアナ騎士団に包囲されてしまいました。
オシーンらは、ディルムッドを逃がそうとしましたが、ディルムッドは「それでは大切な仲間がフィンの怒りを買ってしまう。」と考え、フィンの前に姿を現しました。

怒りのフィンはディルムッドに襲いかかりますが、フィアナ騎士団最強と言われるディルムッドはそれらを全てかわし、逃げ去ってしまいました。

それから16年。
王の仲介によって、フィンとディルムッドは和解しました。
ディルムッドとグラーニャは正式に結婚し、フィンにはグラーニャの妹が妻として与えられました。

ある日、王とフィンがお客として招かれて、ディルムッドと狩りをしていました。

その時、巨大な猪がディルムッド目かげて襲ってきました。

しかし、ディルムッドには「猪を狩ってはいけない」と禁忌がありました。
なんとかディルムッドは猪を倒したものの、瀕死の重傷を負ってしまいました。

フィンには傷を癒す治療術がありましたが、グラーニャの件での恨みが消えていなかったのか、ディルムッドを治すことができず、ディルムッドは生き絶えてしまいました。

※ここの表現がソースによって、違います。
(1)猪はフィンの罠でワザと見殺しにした。
(2)フィンの心に葛藤があって、戸惑っているうちにディルムッドが生き絶えてしまった。
僕は今まで仲間に誠実で正義感のあったフィンが、急に器の小さい邪悪な性格になるのに違和感を感じたので、(2)の前提でまとめています。

グラーニャは、フィンを恨んで息子たちに復讐を誓わせましたが、フィンが訪ねてくるようになり、時間をかけて口説かれると、結局はフィンに口説かれてしまい、死ぬまでフィンの妻として生きていくことになります。
※これもフィンの心の葛藤を知ったグラーニャが同情したと考えると、もう少し自然に捉えやすいかもです。

しかし、騎士団のメンバーたちは、フィンが騎士団の勇士ディルムッドを見殺しにして、グラーニャを妻にしたことに対し、冷ややかな態度で迎えました。

特に、オシーンの息子オスカーはディルムッドとは親友で彼を尊敬していたので、祖父フィンには心底軽蔑の念を持ったようで、
「死ぬべきはディルムッドではなく、フィンだった」と言い放ちます。

こうしてフィンと騎士団メンバーの間には深い溝が出来てしまいました。

※これも(1)の前提だと残当なんですが、(2)で考えるとちょっと切ないですね・・・。

戯言

こうやってまとめると、ディルムッドは本当に踏んだり蹴ったりです。
上司に見捨てられるわ、嫁さんは上司に奪われるわ。
NTRの元祖ここにあり!笑

こういう「不倫」とか「不義」とか「三角関係」(という表現が今回のものに当てはまるかは微妙ですが)が絡んだ恋愛話は、こういった古い物語には結構ありまして、「アーサー王物語」のランスロットとアーサー王の妃ギネヴィアの不倫、今回の「ケルト神話」シリーズではまだとりあげていませんが、アルスターサイクルのディアドラの物語なんかがあります。

アーサー王物語については、↓の記事もどうぞ。
新訳 アーサー王物語 読んでみた。

ディアドラの物語は、この「ケルト神話」シリーズを一旦終わらせてから、また紹介をしたいと思います。

ということで、次回はいよいよ最終回。
なんだか、フィンと騎士団のメンバーに溝が出来たってのも最終回の前っぽい演出のような気がします。笑

では、最後までお読みいただきありがとうございました。