ケルト神話について-11 クーリーの牛争い(後編)

前回の記事に続いて、「クーリーの牛争い」というエピソードの続きをご紹介します。



親友との一騎打ち

フェル・ディアド

以前の記事に書いたのですが、クー・フーリンは「影の国」のスカサハの元で武芸の修行を詰みました。

ともに修行をした兄弟弟子でもあり、親友であるのが、フェル・ディアドです。
ゲイ・ボルグの槍は例外として、他は同じ技を会得していたと言われ、修行の終わりには変わらぬ友情と義兄弟の契りを結んだとされています。

前回の記事のメイヴとの面会後、メイヴの戦士とクー・フーリンは 1 vs 1 の戦いを続けていました。
自軍の勝利の知らせがこないことに腹を立てたメイヴは、切り札であり、メイヴの兵士の中で最も強いフェル・ディアドを指名しました
はじめフェル・ディアドは、親友との決闘を拒否しました。

王の地位を約束する、我が娘との結婚を条件に出しても首を縦にふらないフェル・ディアドでしたが、
「戦いを拒む臆病者の戦士として詩人に広めさせる。」と、脅され嫌々戦いを承諾することになります。

一方、クー・フーリンも親友との戦いを避けたいと思っていましたが、やはり戦士としての名誉のため、戦いを避けることができませんでした。
この時代は、名誉が命よりも重んじられていたのです。

二人の戦い

二人は戦いの前に「どの武器で戦うか」を相談し、互いに決めた武器で決闘をしました。
互いに短い槍で戦い、その後は長い槍、その後は剣・・・互角の戦いは3日間続きました。

戦いが終わると、二人は互いにかけよって、互いの戦いを褒め称えました。
そして、食事・酒・手当の為の薬を贈りあったのです。

そして、4日めの戦い。
互角の戦いの中で、フェル・ディアドの一撃がクー・フーリンにクリーンヒットし、フェル・ディアドが優位になりました。

が、クー・フーリンが投げたゲイ・ボルグの槍が、フェル・ディアドに致命傷を与えました。

「すべてはすんだ。すまなかった。」
そう叫ぶと、フェル・ディアドは息絶えました。

クー・フーリンは動かなくなったフェル・ディアドをしっかりと抱きかかえ、自分たちの陣地まで運び、親友を称えて死を悼み悲しみの詩をうたいました。

クー・フーリンの最後

戦争の終わり

クー・フーリンが決闘を続けているうちにアルスターの戦士たちにかかった、女神マッハの呪いが解けます。
そこで互いに総力戦に突入します。

傷の癒えたクー・フーリンの戦いぶりは凄まじく、敵軍はみるみる死体の山を築き上げます。
やがて退却しだしたメイヴの軍隊を追った、クー・フーリンはそこで、女王を捕らえました。

メイヴは「命は助けて欲しい」と命乞いをします。
「女は殺さない」とクー・フーリンは、殺さないどころか道中のシャノン河まで護衛をしてあげました。
こうして、アルスターとコノートは和睦を結びました。

ちなみに、今回の戦いのけっかけとなった牛「ドウン」ですが、メイヴの軍隊が敗北し和平が結ばれる前に、メイヴの軍隊に捕らえられコノートに連れて行かれています。

その道中で「フィンヴェナフ」と遭遇して、戦いをはじめてしまい、結果2頭とも息絶えています。
(大戦争のきっかけになったのに、ちょっと扱いがあっけないですね・・・。)

こうして、戦争は終わり、一件落着。チャンチャン♪

とはいきませんでした。

メイヴの策略

命を助けられたどころか、護衛までしてもらったのですが、メイヴのクー・フーリンに対する恨みは深く、彼女は復讐を誓うのでした。

そこで、クー・フーリンに恨みがある者達を集めて、クー・フーリン殺害の準備を進めます。
父をクー・フーリンに殺され復讐の念に燃えている息子たちをバビロンやスコットランドに送って、魔術や妖術を会得させたり。かなり綿密な準備をしています。

そして、準備が整いました。

メイヴによって集められた「クー・フーリン死ね死ね団」(そんな団体名ではない)の方々は、幻の軍勢と戦場の風景を作り出しました。
その幻をみたクー・フーリンは急ぎ、単身戦地へと向かうことになります。

この出陣前に、不吉な出来事がありました。
愛馬マッハが出陣を嫌がった。
出陣前に飲んだぶどう酒が手にした瞬間、血に変わった。
戦車に乗ると、身につけていた武具が全て滑り落ちた。

戦場に向かう道中で、白い衣の長い髪の女が、血に染まった服や武器を洗っていました。

近づくと、女は泣きながらクー・フーリンの武具を洗っているのです。
更に近づくと、こつ然と姿を消しました。

死を予言する妖精バンシーだったのです。
これを見て、クー・フーリンは自分の死が近いことを悟りました。

さらに道中で、クー・フーリンは三人の老婆に会います。
老婆は、焼いた肉を食べていくように声をかけます。

クー・フーリンには禁忌(ゲッシュ)がありました。
そのうちの1つが、「身分が下の者からの食事の招待を断らない」でした。

仕方なく、その肉を食べたクー・フーリンですが、その瞬間左手の自由を失います。
その肉は犬の肉だったのですが、「犬の肉は食べない」というのも、またクー・フーリンの禁忌の1つだったのです。
(以前の記事にも書きましたが、クー・フーリンの名前は「フーリンの猛犬」という意味です。)

そして、進軍するクー・フーリンの前に今度は3人の詩人が現れます。
この詩人たちはそれぞれクー・フーリンが持つ槍をくれと要求してきます。

詩人に求められた時、断ってはいけないという掟がありまして、クー・フーリンはその要求に応えます。

詩人は受け取った槍を投げまして、
1本はクー・フーリンの御者のレーグ(御者の王)の胸を貫き(絶命)、
1本はクー・フーリンの愛馬マッハ(馬の王)に刺さり、
1本はクー・フーリンの脇腹を貫きました。

クー・フーリンは脇腹からはみ出した内臓を腹に押し込むと、体ごと柱にマントで縛りつけました。
傍には馬の王マッハが寄り添い、クー・フーリンの頭上は光輝いていたので、敵勢は近づけませんでした。

やがてワタリガラスに変身した戦いの女神モリガンが、最後の別れにやってきました。
モリガンがクー・フーリンの肩にとまって、英雄が死んだことをうたいあげると、敵軍の将軍はクー・フーリンの首を剣で切り落としました。

その時、クー・フーリンが右手に持っていた剣が滑り落ち、その将軍の右腕を切り落としました。
敵軍は、その復讐にクー・フーリンの右腕も切り落とし、メイヴのものに持って帰りました。

こうして最強の英雄は、自らの禁忌と敵の魔術と策略によって、その短い生涯を終えました。

クー・フーリンの死後(補足)

クー・フーリンの首を切り落とした将軍は、後にクー・フーリンの親友であるコナルによって撃ち殺されます。

2回に渡って「性悪女」として書いたメイヴですが、その後長年に渡ってコノートの地を支配しますが、最後はアルスターの者の手にかかって死んだとなっています(暗殺)。

メイヴは戦いの女神のように勇ましく、激しい性格もあってか、アイルランドのスライゴ(都市)にあるクノックナリ山には「メイヴの墓」とされる石積みの丘があり、人々に崇拝されるうちに豊穣と活力の女王として信仰されていくようになったようです。

ケルトの文化はストーン・ヘンジだったり、ドルメン(石でできた巨大な墓)やメンヒル(石でできた巨石記念物)などの巨石遺跡との関わりが深く、ストーン・ヘンジはアーサー王物語のマーリンが造ったとされていたり、以前の「神話サイクル」でご紹介した「ダーナ神族」らがこういった遺跡に関わっているという説もあったりして、見方を変えるとまたいろいろと面白そうです。

最後に

以上で、クー・フーリンを中心とした「アルスターサイクル」を一通り紹介したことになります。

よかったら、今までの「ケルト神話」カテゴリの記事も見ていただけると、より楽しめるのでは。と思います。

さて、次回からですが、「フェニアンサイクル」という章に入っていきます。
正直、この先はあんまり興味が持てなくて読んでません。笑

参考にしている本でも、紹介されているページ数が少なめとなっていて、資料が少なめなので今回の章よりも更に回数が少なくなるかと思います。

その後は「歴史サイクル」に入っていくのですが、「神話」とは言いにくいので、次回からの「フェニアンサイクル」を終えた後は、他の神話か「アーサー王物語」あたりを取り上げていきたいと思います。

もしリクエストなどございましたら、コメントやメッセージ(メールやTwitter)などいただけると、励みになりますので、よろしくお願いいたします。

では、最後までお読みいただきありがとうございました。